大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 平成5年(少)4330号 決定

少年 S・S(昭51.3.3生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(罪となるべき事実)

少年は

第1  「甲」(編注、以下「暴走族甲」とする。暴走族につき以下同じ。)と称する暴走族の構成員と交際していたものであるが、この暴走族とかねてから対立関係にある暴走族である「乙」、「丙」、「丁」等の構成員が世田谷区内を勝手に走行したり襲撃したりしてくることに対して、暴走族甲及びこれと友好関係にある不良集団である「戊」(編注、以下「不良集団戊」とする。)の構成員ら約50名が、報復のため、上記暴走族「乙」等の構成員の生命、身体に対し、共同して危害を加える目的をもって、平成5年5月8日午前零時ころ、東京都世田谷区○○×丁目××番○○公園において、鉄パイプ27本、バット23本、ステンレスパイプ8本、金属製パイプ6本、角材6本、鉄棒2本、鉄杭2本、U字型鉄棒2本及びU字型アルミ棒1本の合計77本の兇器を所持して集合した際、兇器の準備があることを知りながら同○○公園に行って集合し、もって兇器の準備があることを知って集合し

第2  A、B他1名と共謀のうえ、同月30日午前4時30分ころ、同区○○×丁目××番×号先京王帝都電鉄株式会社線路敷地内において、C(当時17歳)に対し、こもごも、その顔面、胸部、腹部等を約10回ずつ足蹴にし、少年において同所にあった木棒でCの背部を殴打し、AにおいてCの頭部に数個の石を投げつけて当てるなどの暴行を加え、よって、Cに対し、加療約17日間を要する頭部打撲、挫創の傷害を負わせ

たものである。

(法令の適用)

上記第1の事実について刑法208条の2第1項

上記第2の事実について同法60条、204条

(処遇の理由)

少年は、父母の第2子長男として大阪府内で出生したが、当時、父が勤務のため東京で単身生活を送っており、幼児期には主に母及び父方祖父母の許で育てられ、昭和57年小学校入学を機に父母とともに東京で生活するようになった。幼児期はどちらかというと甘やかされて育てられたが、父は自ら厳しく躾けられたこともあって、少年に対して中学校在学中も体罰を含む厳格な態度で教育してきた。母は、東京転居後も大阪への週2日間の大学講師としての勤務を基本的に今日まで続けてきている。少年は、小学校ではいじめられる方であったが、高学年のころから身体の発育とともに粗暴な行動が増えて学校で喧嘩をするようになり、昭和63年4月に中学校に入学した後も、暴力的な行動をとったり、同じ区内の他の中学生と喧嘩をして保護者が学校で注意を受けたりしたことがあった。平成3年4月に高校に入学した後は、友人などとゲームセンターで遊ぶようになり、1年生の夏休みに友人が暴走族甲に入ったとき、少年は正式には加入しなかったものの、加入した者との交際を続け、行動を共にしてきた。平成3年11月に傷害の事件を起こして平成4年6月に当庁で不処分の審判を受け、その後、同年7月に免許を取得して自動二輪車を運転するようになり、同年夏ころから甲の構成員と直接付き合い、暴走行為などに参加するようになった。同年5月に起こした自動二輪車の占有離脱物横領と傷害の事件について、在宅で調査のうえ、平成5年2月18日に東京保護観察所の保護観察に付する旨の保護処分を受けた。同年3月には成績不振などのため進級できなくなり、また、同じころから暴走族甲及び不良集団戊の者と暴走族乙、暴走族丙等の者とが対立して抗争するようになったため、少年もたびたび呼び出されて暴走族甲や不良集団戊の者と行動を共にし、喧嘩などの現場にも一緒に行くようになった。同年4月に現在の通信制高校に転校したが、その行動の傾向は変わらず、同年5月に上記罪となるべき事実欄に記載した各非行を敢行した。同年6月からは、友人から仕事をしないと警察に捕まるという趣旨の話を聞き、また、自分もそろそろ働かないといけないと考えるようになったことから、ガソリンスタンドで臨時の店員として就労し、稼働を続けてはいたが、なお同年6月中の仕事のない日には○△地区の不良集団の者と交際し、毎日の勤務になった同年7月以降も、仕事はするものの夜間はほとんどの日にゲームセンターなどで友人と遊ぶという生活を続けているうち、同年8月4日に上記第1の非行により逮捕され、同月23日に当庁で観護措置を執られた。

上記罪となるべき事実欄第1に記載の兇器準備集合の非行は、少年が当時行動を共にしていた不良集団が、かねてから対立する他の集団に対する報復のための襲撃をしようとして敢行したもので、少年は、兇器の準備や集合したことそれ自体については主謀者としての地位にはなく、従属的に関与したものであるが、このようなことで警察に捕まるとは思わなかった旨少年自身述べているように、保護観察中であるという自分の立場を軽視してかなり安易な考えから行動したもので、その規範意識の低さが窺われるし、兇器の準備がされる計画があることを1週間位前から聞き知っており、当日も甲の者から集合場所を聞いたうえで自動二輪車を運転して他の仲間と共に現場に集合したものであり、一般人の通報で付近を警戒していた警察官が少年らを補導したためそれ以上の傷害事件などに発展しなかったものの、犯行の動機や集合した人数、兇器の数などから考えて、かなり危険な態様の事件である。また、上記第2の傷害の非行は、暴走族甲の5代目の襲名式があった後にこの暴走族の者とともに暴走行為をしていた時、被害者の乗った二輪車がたまたま少年らの近くを走行して木刀を振り回すなど挑発的な行動をしたのに憤激したことと、以前被害者らのグループに少年の仲間の者が傷害を負わされたことに対する報復のため、逃げる被害者を共犯者らとともに追い掛け、現場において執拗な暴行を加えて傷害を負わせたという集団的な暴力事件で、少年は直接かつ主導的にたまたま付近にあった棒をも用いた執拗な暴行の実行行為を行って、被害者の頭部に傷害を負わせたものである。

上記認定の各非行の動機、態様、結果等を総合考慮すると、いずれも実行行為自体については共犯者などの行動に相互に助長された面があること、傷害の非行については、非行に至る経緯において被害者の責めに帰すべき事由があり、被害者は現在では少年を宥恕して寛大な処分を望んでいることなどを十分斟酌しても、少年の責任は軽視できないと考えられる。これらの非行は、暴走族に特有の集団的な縄張り意識、報復感情や、暴力を肯定する価値観に基づくもので、少年自身はこのような集団に加入していないと口では強調するものの、普段から暴走族など不良集団の者と交際してこれに同調する言動をとってきており、その構成員に極めて近い立場にあったもので、平常の行動の傾向や意識のあり方から考えると、上記のような粗暴な行為を行う不良集団に特有の考え方や価値観及びそのような集団への強い帰属意識を自ら有していることが窺われるのであって、暴走族などの構成員と同様の物の見方、考え方に基づいて敢行した極めて危険性の高い非行であるというべきである。小学校のころから比較的長い期間にわたって粗暴な行為を繰り返す傾向が続いてきたこと、同種の前歴により保護観察処分を受け、その継続中に連続して敢行した再犯であることや、少年がいまだ精神的にかなり未熟であって社会的に適切な方法で自己主張や自己統制ができるだけの能力が開発されていないことをも併せ考えると、少年の粗暴犯の非行性は相当程度に進んでいると認めるのが相当である。たしかに、本件各非行以外の場面では、たとえ暴走族が傷害事件などを起こした現場に同行していても少年自ら暴行をしなかったことがあるけれども、そもそも暴走族など不良集団の者と行動を共にしてそのような現場に行くこと自体が少年の問題性のあらわれであるうえ、自ら暴行行為に出るか否かはその場の偶然性に左右される面もあるから、直接暴行に出なかった場合があることだけを強調して直ちに少年の粗暴性の弱さを導くことは相当ではないと考えられる。また、不良集団に親和する傾向は、中学校在学中からのもので、こう傾向が従前からの家庭内の不和によって増幅されてきており、また、不良仲間が多数にのぼっていることや、少年の問題認識の甘さをも考慮すると、安易に依存できる友人関係の中で不適切な自己顕示の場を求めようとする傾向を是正するためには、かなりの教育を要するであろうと考えられる。

少年は、上記のように平成5年2月18日東京保護観察所の保護観察に付されたものであるが、保護観察の経過によると、担当保護司との接触は保たれ、同年6月以降はそれなりに稼働していたものの、保護観察処分を受ける前とその後とを比較しても、交友関係を進んで改善しようとした跡は窺えず、かえって不良集団に所属する者などとの交際を深めて何度か喧嘩などの現場にも同行したりするなど、保護観察中であるとの立場を弁えない行動をしてきたうえ、既に保護観察に付されていた友人の保護観察を軽視する趣旨の発言を信じたことも手伝って極めて安易な捉え方をしており、保護司方への来訪など遵守事項を外形的に守ってはいるものの、保護観察における指導を自らの更生のためのものと主体的に受けとめてその指導を受け入れる姿勢に乏しく、社会内処遇を継続して改善を図ることは困難な段階になっているというべきである。

少年は、観護措置を執られた当初は、事件についてかなり他罰的な捉え方をしており、自分の責任や問題点について考えが及ばず、早く出てバイクで夜明けの海や山に行きたいなどと鑑別所での日記に記載するなど、反省をしているとは考えられない言動をとっていた。その後、審判廷においてはようやく自分の問題に目が向けられるようになってきたことが窺えるけれども、粗暴犯を繰り返すことの背後にある自分中心の物の考え方、自己統制力の弱さ、精神的な未熟さ、力を誇示して自己を主張しようとする集団への同調傾向の強さなどの真の原因にまではまだ十分に思いを致しておらず、傷害の被害者への感情についても、裁判官や付添人のその点を指摘した質問を受けるまで答えられないなど、自分の起こした事件についての認識が総じて甘いままであり、交友関係の改善の具体策については、仕事と学業を続けて○△地区のたまり場へ行かないようにするといった程度にとどまっており、事件の反省やこれから改善すべき点の認識についてもようやくその出発点に達したことが窺えるという段階にすぎず、さらに深く自分の問題について厳しく考えてそれを克服することに向けた具体的かつ集中的な教育を受けなければ、その人格的成長と非行性の矯正は期待できないと考えられる。

保護者の養育のあり方について考えると、父は、依然として自分の受けたような厳格な教育をよしとする考えにとらわれる傾向があって、少年に相応しい家庭内での教育のあり方を考えていこうとする姿勢に乏しいうえ、母は、少年との母子密着の傾向が強く、父との間では何度か離婚話がもちあがるなどしていて、父母の間で解決されなければならない夫婦間の問題をもかかえているうえ、前回の審判や保護観察の経過において指摘されてきたように、父母の養育態度が適切でないため、少年の成長を図り自立性を促進して自信をもたせる方向での教育ができていないという問題点は基本的には改善されないままであり、そのことが今日まで少年の問題性を結果として助長してしまったことは明らかである。しかも、今回少年が逮捕されてから審判期日に至るまでの間に、父母が少年の更生のため家庭環境や教育の改善について十分に話し合った跡は窺えず、審判の最終段階になってやっと父母が真剣な会話をして改善をしようとする姿勢を見せるようになった点は好ましい傾向として評価できるものの、父母が一致して将来の具体的な対応策を十分に検討できる段階には至っておらず、これまでの家族間の様々な感情のもつれや歪みのある家庭の状況からみて、今直ちに在宅で少年の更生を図るために適切な家庭環境が回復されているとは認められず、保護者の指導力はなお乏しいままであると考えられ、その監督にも多くを期待できないといわざるをえない。

したがって、以上に述べた本件各非行の動機、態様、結果、少年の経歴、性格、資質上の問題点、保護観察経過、保護環境上の問題点などを総合考慮すると、少年が今回初めて観護措置を執られて審判廷ではそれなりの反省の言葉を述べて再起を約していること、平成5年6月以降は稼働を続けていたこと、保護者が現在では協力して少年の更生のために努力する旨誓約していることその他付添人の意見書に記載された更生のための好条件などを十分斟酌しても、社会内での処遇を継続することにより少年の改善を図ることは困難であり、この際少年に対しては施設内で矯正教育を実施してこれ以上の非行を防止する必要があると認められる。その処遇課程は、少年の非行性の程度、問題性の内容や、高等学校程度の教科教育課程が適当であることを考えると、短期処遇課程で教育することはできず、長期処遇課程による必要がある。

なお、補導委託の可能性を含めて、試験観察に付するべきかどうかについても慎重に考慮したが、少年の改善すべき問題点はすでに判明しているし、その非行性は在宅の処遇では十分な改善が期待できない程度に進んでいること、少年がいまだ自分の問題点について十分に認識しておらず、適切な指導者から集中的に教育を受けながら自己の問題をさらに深く考えてその克服に向けた成長を遂げさせる必要があること、年齢に比してかなり未熟で、自立性の発達が遅れており、健全な社会生活を続けていけるだけの能力がまだ十分には開発されていないなどという性格、資質上の問題点などを併せ考えると、補導委託を伴う試験観察または在宅での試験観察に付して家庭裁判所の中間処分に付随する保護的措置を行うよりも、組織的な処遇計画に基づいて人格的成長を達成させる教育を集中して実施できる少年院における教育による方が、少年のもつ問題点の克服を図ってその非行性を矯正するのに適当であると考えられるのであって、現在の時点では、試験観察に付して処分を見極めるまでもなく、少年に対しては施設内での矯正教育に委ねてその健全な育成を図ることが相当である。

よって、少年を中等少年院に送致することとし、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して、主文のとおり決定する。

なお、少年の教育は、高等学校程度の教科教育課程をもつ少年院で行われるのが相当であるから、少年審判規則38条2項により、別途その旨勧告する。

(裁判官 五十嵐常之)

〔参考1〕処遇勧告書 平成5年少第4330・4448号〈省略〉

〔参考2〕 抗告審決定(東京高 平5(く)209号 平5.10.12決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人が提出した抗告申立書(編略)に記載されているとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、原決定は、少年が本件各非行に至った動機、少年が置かれていた状況、本件各非行における少年の関与度、少年自身の反省、保護司の指導、保護者の監護能力等についての評価が一面的である、少年の非行性の深度もそれほど深いとはいえないし、現在では少年も反省し、自立の芽も出てきている矢先であり、父も少年と二人で千葉方面へ引っ越し、自ら少年を養育したいと申し述べているので、少年を中等少年院へ送致する旨の原決定は重過ぎて著しく不当な処分であり取り消されるべきである、というのである。

そこで、記録を精査して検討してみると、本件は、甲と称する暴走族の構成員と交際していた少年が、暴走族甲及び戊と称する不良集団の構成員ら約50人が、暴走族甲と対立する「乙」等の暴走族の構成員が世田谷区内を勝手に暴走したり襲撃してきたりしてくることに対する報復のため、「乙」等の構成員の生命、身体に対して共同して危害を加える目的を以て深夜世田谷区内の○○公園に鉄パイプ、バット、角材、鉄棒等の兇器を準備して集合した際自らも兇器の準備があることを知ってその場に集合したという兇器準備集合(非行事実第一)及び暴走族甲の仲間である共犯少年ら三名と共謀の上、甲と対立関係にある暴走族に所属している被害少年に対して顔面、胸部、腹部等を足蹴する、背部を木棒で殴打する、頭部に石を投げつけるなどの暴行を加えて(少年自身も被害者の背部を木棒で殴打するなど積極的に実行行為に加担している)負傷させたという傷害(非行事実第2)の各事案であるところ、少年は、高校への進学後暴走族仲間と交際し暴走行為などに参加する中で自動二輪車の占有離脱物横領や傷害などの非行を犯し、平成5年2月18日保護観察に付されたものであるが、その保護観察の係属中も深夜遅くまで暴走族仲間と行動を共にする生活を続けて本件各非行に及んだものであり、規範意識の低下や粗暴な傾向が目立ち、保護観察についての自覚の不足等ともあいまち、その非行傾向は看過し難い現況に立ち至っているといわなければならず、少年の資質、性格、保護歴、環境等を考慮すると、少年に対しては、いまこの時期に施設内での規則正しい生活を体験させ、暴走族仲間との不良交友を含む自己の問題点等についての内省を深めさせるとともに規範意識の涵養に努めさせるのでなければ、その健全な育成を期し難いと認められるところであるから、少年の反省、父をはじめとする家族の決意等所論指摘の諸点を十分斟酌しても、右と同旨の判断のもとに少年を中等少年院へ送致し、あわせて高校程度の教科教育課程を持つ少年院での処遇勧告をすることとした原決定の措置は相当であり、これをもって少年についての評価が一面的で重過ぎて著しく不当な処分であるとすることはできない。

論旨は理由がない。

よって、少年法33条1項、少年審判規則50条により、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宮嶋英世 裁判官 栗原宏武 高麗邦彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例